コメカミの和画煎字記

コメカミが観た日本映画を1000字前後で感想をまとめています。

「映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」

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映画『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』予告編 - YouTube

特報の段階で出てきたポスター(当記事でも使用)のインパクトに、かなりの期待を寄せ公開初日に観に行ったが、ハードルを上げすぎたのにも関わらず見事にむしろ楽々と超えてきた。今年の映画を語りたいのならば、誰もが通過しておけなければといっても過言ではない作品。冒頭のカンタムロボの技の長さのくだらなさや、初期からの売りでもある微妙な言い間違いやお下品なギャグ要素も冴えわたるなか、家族愛を深める一方で残忍な終幕を迎えるラストは子供も大人も泣くこと必至。焼却炉で首一つになってしまうロボとーちゃん、本物の父より優れているロボットを選択するしんのすけ、そしてロボを無視し本物に抱きつくみさえと、ひろしの「ニセモノ扱いされなくてよかった」を聞いて立ちすくむロボとーちゃん、そしてある人物による銃撃などのショック描写も遠慮なく盛り込んでいる。ギャグのなかには、大人の階段を見たあとのボーちゃんの一言や、ある番組パロディなど大人でないと分からない描写もあり、大人も飽きずに観ることができる。完璧にこなしすぎるロボとーちゃんを受け入れられないみさえがあることをきっかけに受け入れるシーンや、しんのすけが放送開始から避け続けていたあるものに挑むシーンなど終盤以外にも涙を誘う要素が多いのも見どころ。基本的には家族愛をテーマにした作品ではあるが、オートメーション化された社会へのアンチテーゼや、同じ思想なのにリーダーの違いで組織の雰囲気が変わってしまうことも丁寧に描いている。ラストの腕相撲は父親であり家族のリーダーとなることを目的に作られたロボとーちゃんに備わっていなかったものが、ひろしを勝利に導いたのだと個人的には感じている。きゃりーぱみゅぱみゅ及び中田ヤスタカのタイアップに合わせた仕事ぶりはすばらしいし、まさか彼女の曲で泣く日が来るなんて思ってもみなかった。ゲスト声優2名も物語には直接関わらないが、ギャグ要員としての役割を果たしていたり、声優として素質も感じることができた。正直、オトナ帝国・戦国大合戦という巨大な2本が出来て以降、「しんちゃん映画イコール原恵一」という呪いでその後の映画制作スタッフはもがき苦しんでいたと思う。今後もほとんどの映画好きな小うるさい輩は、原恵一と比べたがり、ネチネチ言ってくるであろう。しかし、しんちゃん映画は原恵一の2本だけではないぞ!という新たな歴史の1ページをここに焼き付けただけでも、僕は推して評価したい。

「白ゆき姫殺人事件」

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『白ゆき姫殺人事件』予告編 - YouTube

舗装した道路と思ったら大きい穴があり前に進めなかった、という感じか。前半、空想で作られた城野美姫がとる奇怪な行動と、報道するテレビ番組が繰り返されたのち、番組を見ながら涙を流す本物の美姫が出てきた瞬間とその表情が鳥肌が立つほど恐ろしい。『八日目の蝉』につづく、女優・井上真央の本領が発揮された部分だ。デマを流した人物や、偏向な報道を番組関係者などにも鉄槌が喰らうのは爽快だし、過去の邦画のような執拗な「ネット=害悪」的な要素は抑えつつ、その危険性を伝えるのが作品の役割ならば及第点。本来マイナスイメージになりかねないツイッターが協賛で名を連ねたことにも感心。終盤の夜のシーンも、真っ暗で巨大なスクリーンで観るに最適な演出が施され親指が立った。しかし、ネットの露悪的な部分がしっかり演出されているのに、赤星によるインタビューの部分が酷い。城野の関係者たちに取材をしているが、ある人物だけインタビューを受けないまま終わる。推測であるが、最終的にその人物は殺害された典子を恨むと同時に城野の味方でもある。そんな彼女の証言シーンがあると、話が成立しなくなるから取材シーン丸ごと削ったという作り手の都合が見えてしまい、このせいで作品の評価がガタ落ちしてしまった。実は赤星はその人物に取材していたが、美姫をかばうことしか言わなかったので、不要と思い消してしまった。というシーンをひとつ加えておけばよかった。城野と恋人関係だった篠山が、彼女が祀り上げられる前の段階で険悪な態度を取るのも不可解。証言を編集した映像が番組で使われるが、証言の段階で証言者らの空想を入れているだけでなく、証言シーンと違うものが番組で使われているせいで編集した感が伝わってこない。ツイッターに対する知識不足も目立つ。冒頭で赤星がいちいち感情を書くところで首をかしげてしまったし、根本的な問題で画面に出てくるツイートに声を入れてしまっていることが大きなマイナス。とどめを刺してしまえば、新幹線とコインパーキングの出入りした時間を考えればアリバイ成立してしまうのではないだろうか。赤星が晒し者になる情報はどのように広まったか。立場がなくなってしまったディレクターの怨恨で拡散したシーンを加えてもいいし、城野の友人・夕子が名刺を公開しようとするが、思い留まるというようなシーンをくわえても良かった。褒めたい部分はあるが、残念ながら穴が大きすぎた。

「大人ドロップ」

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映画『大人ドロップ』【予告】4月4日(金)ロードショー[公式] - YouTube

大人への憧れから物事を冷淡に見ようとする表面的な態度と、若いうちにいろんな経験をしたい熱が混在し、心の中で入道雲が起きる高校生活。大人になり振り返ると、それは後悔と恥と青臭さのオンパレードであったことを、鑑賞しながら思い返させる。そして、それこそ青春であり、何の葛藤もなく過ごすのは退屈極まりないもので、あのとき起こしたことが正しいかはわからないが、些細なきっかけで振り返ったときに、頬が真っ赤になるくらいが丁度よいと教えてくれる心地よい映画だ。繰り広げられる会話がどれも微笑ましく、ときにプッと笑わせてくれる。そんな愛おしい登場人物たちを見事に具現化させてみせた主要4人の若き俳優陣が素晴らしい。冷静を装っているが苦虫を噛み葛藤する主人公・由の演じた池松壮亮や、その友人でかなりウザくどうしようもないが放っておけない人物像をコミカルに演じた前野朋哉、透明感があり謎を秘めた存在でありながら実は重い悩みを抱えているヒロイン・杏を演じた橋本愛もすばらしいが、杏の友人で、もうひとりのヒロイン・ハルを演じた小林涼子の存在が特に輝かしい。由にはわんぱく、杏には甘えた猫のようになる態度のギャップをはじめ、一つ一つのしぐさ、眩しい笑顔と哀しげな表情、すべてが魅力的であり、中盤ほとんど彼女の出番がなくなってしまうのは個人的にはかなり不満であるが、存在を忘れたころに再び現れることでその魅力を増大させる製作者の意図であると捉えている。中盤から登場する香椎由宇河原雅彦も物語からは独立しているが、ある決断をするシーンでは涙がこぼれた。挿入歌で奥田民生の「息子」という曲を黒猫チェルシーというバンドがカヴァーしているのだが、当時29歳の奥田が大人目線で描いた「青春」の曲を、23歳という青春時代を終えて大人になりつつある若者が歌うことで、同じ曲なのに伝わり方が全然違ってくるのも、振りかえると面白い。ナレーションが多めなので、説明的に見えがちだが、池松壮亮の落ち着いた声のトーンは、耳元で囁かれているかのような不思議な感覚にもなる。高校生があんなに言葉巧みな会話ができるのかという疑問や、担任の執拗な冷酷さが極端であるが、約2時間という上映時間とは思えない長く心地よい時間を楽しむことができた。あまり振り返りたくない青春時代を過ごしてきた身としては、そのすべてを浄化してくれるような内容に目が何度も潤んだ。

「魔女の宅急便」

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映画『魔女の宅急便』予告編 - YouTube

尾野真千子のオソノさんを中心にジブリ版を忠実に再現したキャスティングを観て、わりと本気で挑んでいる思って観ていたが、どうやらまだ実写化には早かったようだ。ダメな部分は多々あるが、特に目立つのは“東洋の街”と称されたロケーションだろう。風車があって横文字の街が並ぶのに、学校や動物園のシーンとなると「100%日本」な場所が出てきて、メルヘン感が薄れて萎える。最初に出てくる“東洋の街”というのも忠実に再現できませんでしたと言い訳をしているようにも見える。逆にメルヘン感が濃すぎて萎えたのはジジとマルコのCGなのだが、これも物語上活躍すれば許されるが、ジジもジブリ版のような人形として活躍するシーンや、喋らなくなる展開などが一切なくただの傍観者にすぎず存在意義はほぼない、マルコも別に本物のカバでも良かったシーンがほとんどである。子ども向け演劇のようなセリフっぽい演出(特に動物園の人たち)もイライラするし、キキの母(宮沢りえ)が発する“わらいがお”というワードも妙に鼻について仕方がない。レコード会社が大きいスポンサーなのかと思えるくらい、声を失った歌手のエピソードを重要なキーにしているが、正直物語上どうでもいいエピソードであり、どしゃぶりの中で歌いだしたときはさすがに笑ってしまった。またその歌も全然作品の雰囲気にあっていない。ジブリ版にはない、中盤のキキが呪いを運んでいるとデマを流されて、森の中で遭難して一人でもがき苦しんで、そんな中トンボに自転車を教えてもらうエピソードまではヒロインの素朴な存在感と演技が良く持ち返していたのに、動物園のカバのエピソード以降がそれを帳消しにしてしまった。マイナス印象からオソノがキキを受け入れるのも呑み込みづらいし、フクオもセリフがあったかと思いきや急に原始人のように「フン」しか言わなくなるのも不自然、彼こそ真の傍観者であるべき(ピエール瀧とか土田晃之のほうがコメディ要素は強まったと思う)。洗濯物を結んで飛ばしたり、雷雨のなかカバを運ぶシーンそして上空からみた映像など飛んでいるときの映像は素晴らしく、むしろ3D上映にしたほうがよかったのではないかと思わせる。ヒロイン・キキを演じた小芝風花は純粋・素朴な感じが全面に出ており、オスカーのオーディションで選ばれるシンデレラ・ガールであることは伝わってきた。彼女のアイドル映画だと思えば高得点だがさすがに不本意だろう。

「神奈川芸術大学映像学科研究室」

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映画『神奈川芸術大学映像学科研究室』予告編 - YouTube

話の大筋を言ってしまえば、一人の若者がやっている仕事の魅力を感じずにいて、ある日トラブルに巻き込まれ、さまざまな人たちに翻弄された後、ため込んだ怒りが爆発するが、そこで何かやりがいを見出し仕事を続けようとするという流れである。起承転結がハッキリとしているだけでなく、これまでの映画やドラマで見てきた、ある仕事にスポットをあてた作品ではありがちな展開ではある。しかし、こんなにも定番で普通の話、なお且つ大学の映像学科の助手とはいえ、書類の作成や備品の管理をしたり、クレームを受け付けたりする事務員同様の描きづらい仕事にスポットをあてているのにも関わらず、面白く描いてしまうのだから、これは監督や演出による見事な手腕と言っても良いだろう。まず出演している役者たちの程好い無表情が、作品の魅力を増大させている。ジロリとした鋭い眼光を持ち、憮然とした表情で仕事を続ける奥田。一方でパッチリした目をしているのに心ここに在らずといったように着々と仕事をこなしてく安藤。そして起きている問題が他人事のような学生たち。ほとんどの人物が感情を表に出さずに進んでいき、突然恫喝しあったり、涙ながらに訴えたり、熱弁したりするが、次のシーンではまた元の無表情に戻っていたりする。一種の顔芸ともいえる。責任を逃れようとする教授陣と責任を実感していない若者たち、そして一番問題とは無縁なのに奮闘する奥田を中心とした助手たち。最後には、結局この問題はこんなに大きくなるはずのものだったのだろうか、そもそもなんだったのだろうか。という形で収束するのだが、そんな一連を見届けた主人公・奥田がずっと維持し続けた無表情から、最後の最後に見せる笑顔が実に微笑ましい。この手の職業にスポットを当てたような映画やドラマが、及第点に値するかどうかのポイントは、作品を観ている者がこの仕事に興味を持つかどうかが一つであると勝手に思っているが、とりわけ魅力的に描いているようにはみえないこの仕事に対しても、鑑賞しながら「どうやったらこの仕事には就けるのだろう?」と筆者は興味を持ってしまった、それだけでもこの映画は観た価値のある作品であると思う。映画上映会に意欲がない学生に対し、取り仕切る斉藤が、あまりにも臭く熱いメッセージを投げたところで、生徒たちがあっさりと心を開いてしまうところはリアリティがちょっと薄い気もする。

「ゲームセンターCX THE MOVIE 1986 マイティボンジャック」

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映画『ゲームセンターCX THE MOVIE 1986 マイティボンジャック』予告編 - YouTube

人気バラエティ番組の劇場版ということもあり、テレビでやっている内容を同じように映画で観るだけという推測、しかも過去におこなった放送の編集版(ディスク化もされている)という情報もあってか「需要があるのか?」と心配していたが、意外というかかなり面白かった。やはり日本武道館でイベントをおこなうほどの人気番組、その中でも伝説の回ということもあってか有野課長がゲームに奮闘するシーンは面白い。これは番組自体を初めて観る人や馴染みのない人のほうが引き込まれてしまうだろう。ところが、しばらく経ったところで突然フィクションのドラマが始まる。ドラマなんて良いから、早く先を見せてくれないかと思いつつドラマターンを観ているとなかなか面白く、完成度の高い中学生日記といった内容。『桐島、部活やめるってよ。』のようなスクールカーストも描きつつ、『鈴木先生』のように自分のポジションを受け入れつつある中学生の葛藤を描いている。ドラマのほうにも引き込まれ、有野課長ターンに戻ると、そうだった忘れてたと思わせる。しかも今度はドラマの先が観たくなるが、また課長の奮闘ぶりに引き込まれ忘れさせてくれる。気になり引き込まれ忘れるを何度も楽しむことができる。しかも終盤では2つのノンフィクションとフィクションが映像技術で見事に融合する(あとでDVDを観返したら、実際に会場の男の子が挑戦していた部分やそこで起こったことを違和感なく編集している)。みんなが観ている前でやるという同じプレッシャーの環境や、逃げ惑うシーンがゲームの内容に一致することなど2つのシーンが自然にリンクしているところも良い(ただ、逃げ惑うところでゲーム画面を盛り込んだのは蛇足)。ガセ情報ばかりのゲーム雑誌や、RPGのCMっぽい妄想など当時のゲーマーたちの心をくすぐるようなネタも盛り込んでいる。番組の熱心なファンではないので甘々なこと言っているのかもしれないが、むしろ番組のヘビーな視聴者でないほうが楽しめる内容である。ドラマターンの主人公の心情吐露ナレーションは乱発しすぎだし、裏技(ウィキにも載っているので違うのかもしれないが)であるはずのセーブやワープを一切使わずに13面まで行ってしまっている先輩など不自然な部分も多い。ヒロインとの初めての会話のときに最初に「ボンバーマン」が出てこないのは正直疑問であるが、細かく観た結果なので良し。

「ニシノユキヒコの恋と冒険」

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映画『ニシノユキヒコの恋と冒険』予告編 - YouTube

予告を観ると、ルックスもよく仕事もできセックスが上手いのに、最後はフラれてしまうモテ男が真実の愛とは何かを知るベタな展開の作品なのかと思っていたが、冒頭で主人公が事故死して、幽霊になるという想定外の展開が待っており、さらに主人公が相手の性欲がわかってしまう特殊な能力を持ち、しかもそれに応えなくてはという正義感であふれた優しい主人公であるなど、良い意味で騙され裏切られる。その正義感を乱発することで最終的には女性たちが己の性欲を充たすための、セックスフレンド以上恋人未満の扱いでしかない男になってしまう悲しい物語であり、相手の幸福のために、その愛を受け入れることは本当に自分にとって幸福なのことなのかを問うてくれる。そのプレイボーイであるが不器用な男、ニシノユキヒコを演じた竹野内豊はすばらしい。女優たちの好演も光っており、エロスムンムンのオーラを放った尾野真千子と、女子高生・みなみを演じた中村ゆりかは特に輝いていた。最後に流れる七尾旅人の主題歌も曲自体が今年の音楽シーンの代表曲ともいえる逸品なのだが、まるでニシノユキヒコのすべてを肯定し天に招く賛美歌のようにも聴こえてくる。しかし、物語が面白いだけに演出が残念いうのが正直な感想。間延びした時間、人物たちのゆったりとした会話、エンディングでのスタッフロールの出し方など、全体的に荻上直子リスペクトなのかと思わせる手法なのだが、この作品とはどうも食い合わせが悪い。葬式の楽隊の演奏、映画館に入って出てくるまでなど無駄に長いシーンが多すぎる。特にユキヒコと女性たちのやりとりは、普通に見せれば微笑ましいのに、イチャイチャしたバカップルにしか見えず、延々と観させられるのは拷問に近く、せっかく愛着のある主人公なのに嫌悪感しか沸いてこない。上映時間122分も90分くらいに絞れたはず。竹野内豊尾野真千子の職場の後輩にはどうしても見えず、年齢設定に不可解な部分も多い。最後は突然、みなみが「ゴースト」のようにユキヒコを憑依して会話をはじめるのだから驚きである。とはいえ、思い返してくと次第に好感が沸いてくる作品ではあった。愛着のある人物であり、決して主役のような存在でないという点では「横道世之介」に匹敵する存在感かもしれない。