コメカミの和画煎字記

コメカミが観た日本映画を1000字前後で感想をまとめています。

「大人ドロップ」

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映画『大人ドロップ』【予告】4月4日(金)ロードショー[公式] - YouTube

大人への憧れから物事を冷淡に見ようとする表面的な態度と、若いうちにいろんな経験をしたい熱が混在し、心の中で入道雲が起きる高校生活。大人になり振り返ると、それは後悔と恥と青臭さのオンパレードであったことを、鑑賞しながら思い返させる。そして、それこそ青春であり、何の葛藤もなく過ごすのは退屈極まりないもので、あのとき起こしたことが正しいかはわからないが、些細なきっかけで振り返ったときに、頬が真っ赤になるくらいが丁度よいと教えてくれる心地よい映画だ。繰り広げられる会話がどれも微笑ましく、ときにプッと笑わせてくれる。そんな愛おしい登場人物たちを見事に具現化させてみせた主要4人の若き俳優陣が素晴らしい。冷静を装っているが苦虫を噛み葛藤する主人公・由の演じた池松壮亮や、その友人でかなりウザくどうしようもないが放っておけない人物像をコミカルに演じた前野朋哉、透明感があり謎を秘めた存在でありながら実は重い悩みを抱えているヒロイン・杏を演じた橋本愛もすばらしいが、杏の友人で、もうひとりのヒロイン・ハルを演じた小林涼子の存在が特に輝かしい。由にはわんぱく、杏には甘えた猫のようになる態度のギャップをはじめ、一つ一つのしぐさ、眩しい笑顔と哀しげな表情、すべてが魅力的であり、中盤ほとんど彼女の出番がなくなってしまうのは個人的にはかなり不満であるが、存在を忘れたころに再び現れることでその魅力を増大させる製作者の意図であると捉えている。中盤から登場する香椎由宇河原雅彦も物語からは独立しているが、ある決断をするシーンでは涙がこぼれた。挿入歌で奥田民生の「息子」という曲を黒猫チェルシーというバンドがカヴァーしているのだが、当時29歳の奥田が大人目線で描いた「青春」の曲を、23歳という青春時代を終えて大人になりつつある若者が歌うことで、同じ曲なのに伝わり方が全然違ってくるのも、振りかえると面白い。ナレーションが多めなので、説明的に見えがちだが、池松壮亮の落ち着いた声のトーンは、耳元で囁かれているかのような不思議な感覚にもなる。高校生があんなに言葉巧みな会話ができるのかという疑問や、担任の執拗な冷酷さが極端であるが、約2時間という上映時間とは思えない長く心地よい時間を楽しむことができた。あまり振り返りたくない青春時代を過ごしてきた身としては、そのすべてを浄化してくれるような内容に目が何度も潤んだ。