コメカミの和画煎字記

コメカミが観た日本映画を1000字前後で感想をまとめています。

「神奈川芸術大学映像学科研究室」

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映画『神奈川芸術大学映像学科研究室』予告編 - YouTube

話の大筋を言ってしまえば、一人の若者がやっている仕事の魅力を感じずにいて、ある日トラブルに巻き込まれ、さまざまな人たちに翻弄された後、ため込んだ怒りが爆発するが、そこで何かやりがいを見出し仕事を続けようとするという流れである。起承転結がハッキリとしているだけでなく、これまでの映画やドラマで見てきた、ある仕事にスポットをあてた作品ではありがちな展開ではある。しかし、こんなにも定番で普通の話、なお且つ大学の映像学科の助手とはいえ、書類の作成や備品の管理をしたり、クレームを受け付けたりする事務員同様の描きづらい仕事にスポットをあてているのにも関わらず、面白く描いてしまうのだから、これは監督や演出による見事な手腕と言っても良いだろう。まず出演している役者たちの程好い無表情が、作品の魅力を増大させている。ジロリとした鋭い眼光を持ち、憮然とした表情で仕事を続ける奥田。一方でパッチリした目をしているのに心ここに在らずといったように着々と仕事をこなしてく安藤。そして起きている問題が他人事のような学生たち。ほとんどの人物が感情を表に出さずに進んでいき、突然恫喝しあったり、涙ながらに訴えたり、熱弁したりするが、次のシーンではまた元の無表情に戻っていたりする。一種の顔芸ともいえる。責任を逃れようとする教授陣と責任を実感していない若者たち、そして一番問題とは無縁なのに奮闘する奥田を中心とした助手たち。最後には、結局この問題はこんなに大きくなるはずのものだったのだろうか、そもそもなんだったのだろうか。という形で収束するのだが、そんな一連を見届けた主人公・奥田がずっと維持し続けた無表情から、最後の最後に見せる笑顔が実に微笑ましい。この手の職業にスポットを当てたような映画やドラマが、及第点に値するかどうかのポイントは、作品を観ている者がこの仕事に興味を持つかどうかが一つであると勝手に思っているが、とりわけ魅力的に描いているようにはみえないこの仕事に対しても、鑑賞しながら「どうやったらこの仕事には就けるのだろう?」と筆者は興味を持ってしまった、それだけでもこの映画は観た価値のある作品であると思う。映画上映会に意欲がない学生に対し、取り仕切る斉藤が、あまりにも臭く熱いメッセージを投げたところで、生徒たちがあっさりと心を開いてしまうところはリアリティがちょっと薄い気もする。