コメカミの和画煎字記

コメカミが観た日本映画を1000字前後で感想をまとめています。

「小さいおうち」

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『小さいおうち』予告編 - YouTube

2010年代、我々のような新たに映画好きになった輩が求める映画と、山田洋次作品の世界観にズレが生じていたこのタイミングで、十八番であり我々に避けられつつあった人情的な要素を残しつつ、これまで避けてきた、幸せの背後に迫りくる闇を描いた、山田洋次82歳にして新たな境地に挑んだ傑作。厚い紙を塗れたものに付けたようにジワジワと迫ってきて、それが爆発したときのカタルシスがたまらない。「無垢」な存在からジワジワと汚れていく時子、「透明」な存在からジワジワと染まっていくタキ。陰と陽、吸収するものは違うが、人間的になっていく二人、そして人間的になるにつれ知っていく人間の愚かさを丁寧に描いている(時子の服が次第に色濃くなってゆくのもそのせいか)。松たか子が放つミステリアスな存在感と、黒木華が持つ清楚かつ和の美しさが役柄に色を添えており、これはキャスティングの妙としか言いようがない。キャスティングといえば、作品によっては浮いてしまう吉岡秀隆の声色も、板倉が物語における異物な存在であることをより高めている。1シーンしか登場しない人物にさえ言及したいほど、ほとんどの人物が存在感を出しており、「男はつらいよ山田洋次の得意分野が生かされたところだろう。シリアスな中に盛り込まれるコメディ要素も抜群。途中で入ってくる現代のシーンも、展開を止めてしまっているように見えるが、シーンに登場する一つひとつのアイテムが過去とリンクしており、あとから先からしっかりと効いていくる。むしろ、現代のシーンを挟まないでずっと過去のシーンばかりでは息が詰まってしまっていたかもしれない。遠く先の話のようにしか捉えてなかった戦争という存在が、ジワジワと迫り、ついにその脅威が直撃した終盤のシーンは、まるで腹の内部を強く握られているような感覚になった。月並みなことを言うが、本当に戦争は良くないと思わされる。物語中で明かされるある真実も気づく人は気づく謎解き的な要素になっているのも面白い。これはとにかく「参りました」としか言い様がない。いわゆる「邦画」とは同じ映画のくくりに入れたくないような「純日本映画」をこの時代に魅せてくれたことに感謝せざるを得ない。敢えて欠点をあげるなら、終盤の現代のシーンは少し長すぎるし、年老いたタキ(倍賞千恵子)と健史(妻夫木)以外はの現代の人物はあまり生かされていないように思えるが、許容範囲。