コメカミの和画煎字記

コメカミが観た日本映画を1000字前後で感想をまとめています。

「ニシノユキヒコの恋と冒険」

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映画『ニシノユキヒコの恋と冒険』予告編 - YouTube

予告を観ると、ルックスもよく仕事もできセックスが上手いのに、最後はフラれてしまうモテ男が真実の愛とは何かを知るベタな展開の作品なのかと思っていたが、冒頭で主人公が事故死して、幽霊になるという想定外の展開が待っており、さらに主人公が相手の性欲がわかってしまう特殊な能力を持ち、しかもそれに応えなくてはという正義感であふれた優しい主人公であるなど、良い意味で騙され裏切られる。その正義感を乱発することで最終的には女性たちが己の性欲を充たすための、セックスフレンド以上恋人未満の扱いでしかない男になってしまう悲しい物語であり、相手の幸福のために、その愛を受け入れることは本当に自分にとって幸福なのことなのかを問うてくれる。そのプレイボーイであるが不器用な男、ニシノユキヒコを演じた竹野内豊はすばらしい。女優たちの好演も光っており、エロスムンムンのオーラを放った尾野真千子と、女子高生・みなみを演じた中村ゆりかは特に輝いていた。最後に流れる七尾旅人の主題歌も曲自体が今年の音楽シーンの代表曲ともいえる逸品なのだが、まるでニシノユキヒコのすべてを肯定し天に招く賛美歌のようにも聴こえてくる。しかし、物語が面白いだけに演出が残念いうのが正直な感想。間延びした時間、人物たちのゆったりとした会話、エンディングでのスタッフロールの出し方など、全体的に荻上直子リスペクトなのかと思わせる手法なのだが、この作品とはどうも食い合わせが悪い。葬式の楽隊の演奏、映画館に入って出てくるまでなど無駄に長いシーンが多すぎる。特にユキヒコと女性たちのやりとりは、普通に見せれば微笑ましいのに、イチャイチャしたバカップルにしか見えず、延々と観させられるのは拷問に近く、せっかく愛着のある主人公なのに嫌悪感しか沸いてこない。上映時間122分も90分くらいに絞れたはず。竹野内豊尾野真千子の職場の後輩にはどうしても見えず、年齢設定に不可解な部分も多い。最後は突然、みなみが「ゴースト」のようにユキヒコを憑依して会話をはじめるのだから驚きである。とはいえ、思い返してくと次第に好感が沸いてくる作品ではあった。愛着のある人物であり、決して主役のような存在でないという点では「横道世之介」に匹敵する存在感かもしれない。